五聖山の一五一曲がり
一九九八年八月のある日、
標高一〇〇〇メートルを越すその山は、そびえ立つ断崖と深い渓谷からなっていた。敵の軍営は目と鼻の先にあった。
総書記が五聖山に登ろうと言うと幹部たちが押し留めた。
「最高司令官同志、豪雨で峠道が洗い流され、ところどころ陥没して登れそうもありません。道路を修理してから登ってください」
「今回だけはわたしたちの願いを聞き入れてください」
彼らの哀願するまなざしを見つめていた総書記は険しい峠道を見上げた。
「ありがとう、わたしを思うあなたがたのその気持ちが……」
総書記は高地に人民軍の軍人たちがいるのに、ここまで来て、高地に行かなくてはいけない、最高司令官がきょうのような悪天候の日に前線の険しい峠道を歩んでみなければ兵士たちの生活を知ることができない、と言って、決然と車に乗るのだった。
車は高地の頂点にある前方指揮所へ向かって走り出した。峠道は一五一曲がりであった。
激しい暴風雨で道端の草は根こそぎにされ、逆巻く濁流に洗われてあらわな石だけ残った道を進むと、車は大きく揺れた。
下方を見下ろすと険しい断崖だった。
みんなが手に汗を握っている時、いきなりバーンという音がしてとがった石を踏んだ車のタイヤが破裂した。スペア・タイヤに取り替えて車はまた前進した。
そうしていくつかのカーブを曲がった時だった。急に車が傾いたかと思うと、崖ぶちにすべり落ちかけた。背筋がぞっとする瞬間、運転手がハンドルを回転させて車は幸いにも道路上に戻った。危険きわまる瞬間だった。
総書記は何事もなかったかのように、後ろの車が見えないと心配した。
車は山の中腹に登りついた。
その時またもタイヤが破裂する音が鼓膜を打った。
汗みずくになった運転手が素早く飛び下りてタイヤを交換した。もうスペア・タイヤは一本しか残っていなかった。
再び山頂に向かって進んでいた車は車輪を空転させて滑り降り始めた。
事態が容易でないと見てとった総書記は車から降りて車体に肩を当てて力いっぱい押した。随員たちも加勢して車を押し上げた。辛苦の末にとうとう一五一曲がりを回りに回って前方指揮所に到着した。
「ご苦労様です。前線でさぞ苦労が多いことでしょう」
泥水のはねた総書記の服装を見た部隊の指揮官たちは迎接報告もできず、目頭を拭うのみだった。
しばらくして指揮官は涙声で言った。
「敬愛する最高司令官同志、ここがどこだと思ってこんなところまでおいでになったのですか……」